「近代漫画の始祖」と言われ、日本初の職業漫画家として活躍した北沢楽天。
その生涯を描いた映画『漫画誕生』が昨年10月、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に選出・上映され、反響を呼びました。
今年予定される本格的な公開を前に、大木萠監督を訪ねました。

近代漫画を確立した埼玉ゆかりの漫画家・楽天
1876年に大宮宿の旧家・北沢家に生まれた楽天は、英字新聞社で西洋漫画の手法を学び、風刺画を近代漫画として確立、明治から昭和にかけて庶民の暮らしや世相をユーモラスな漫画で表現。
一線から退いた後も漫画スタジオを開き後進を育てました。
1948年、大宮盆栽町に居を構え1955年に死去。
旧宅跡に大宮市立(現さいたま市立)漫画会館が設立され、現在、全国でも珍しい公立の漫画専門施設として漫画文化普及の拠点となっています。
楽天と大木監督との出会い
大木監督が楽天を知ったのは、さいたま市の漫画家・あらい太朗さんとの出会いがきっかけ。
北沢楽天顕彰会理事でもあるあらいさんは大木監督のデビュー作『花火思想』を見て、「楽天の映画を撮れるのは大木さんしかいない」と熱心に働きかけたそうです。
それまで、今は忘れ去られている俳人・尾崎放哉(おざき・ほうさい)を撮りたいと思っていた大木さんは「今までスポットが当たらなかった人を作品にしたいという興味の方向性が、あらいさんと同じでした」と振り返ります。
紆余曲折を経て作品は長編映画に。

波乱に満ちた天才の生涯を支えた妻
映画では、フィクションドラマに秘蔵写真、漫画やアニメーションを織り交ぜ、近代漫画のルーツと言われながら歴史に埋もれてしまった楽天のなぞと波乱に満ちた生涯に迫っています。
「手塚治虫も影響を受けたと言われる楽天を調べるうち、戦争という大きな壁を感じました。楽天から手塚治虫に漫画が引き継がれた後、いい時代が訪れたのだと」と大木さん。
楽天役は圧倒的存在感を持つ俳優・イッセー尾形。
「楽天に顔が似ているイッセーさんに、一緒に仕事ができたらと、だめもとでお願いしました。撮影中は思い切り遊んでくださり、楽しかった」
楽天を支えた妻・いの役の篠原ともえ等、楽天を取り巻く人々の演技も魅力です。
「篠原さんは役作りに熱心な方。天才を支える役をどうやったらいいか考えてくださり、すばらしい奥さまをやってくださいました。
『好きなことに打ち込む人』を描くこの作品はまた、夫婦の話でもあります」

オール埼玉ロケも見どころ
オール埼玉ロケによる見慣れた風景も見どころのひとつ。
さいたま市の武蔵一宮氷川神社、東光寺、見沼田んぼ、岩槻郷土資料館。川越市の山崎邸。入間市の文化創造施設アトリエ・アミーゴ。
中には国の登録有形文化財となる直前の築170年の岩槻の古民家も。
それぞれの雰囲気を活かし、味わいのあるシーンが撮影されました。
楽天の魅力を世界に発信したい
「一貫して『表現するとは何か』をテーマに映画を撮ってきました。
この作品が地域を盛り上げる一翼を担えたら。そして、楽天の魅力を世界に発信したい」と大木さんは話しています。
今後の予定はツイッターやフェイスブックに。